Pique(ピクゥエ)

Pique(ピクウェ)とは、基本的には、ベッコウ、象牙、真珠母貝などの有機素材の表面に、金、銀、まれには真珠貝などから作られたデザイン模様を、一種の象眼状に連続して押し込み、その連鎖模様を楽しむ技法を言います。

Piqueという言葉は、フランス語のPiquerから出た言葉で、これは突き刺すとか、ピンで留めるという意味を持ちます。
ピクウェという工法の技法は、ルイ14世の頃のフランスで生まれた技法で、もともとはベッコウで作られた家具やトレイなどの実用具の飾りとして登場しました。その技術を持っていたのは、フランスに住む新教徒であったカルヴィン派の人たちでした。ところが、1685年、ルイ14世治下のフランスで、新教徒の信教の自由を認めていたナントの条例が廃止され、新教徒への迫害が始まります。これを嫌った多くの新教徒は、フランスからオランダ、英国などへ一斉に移住を始めます。これによって、フランスだけで使われていたピクエの技術は、オランダ、英国へと移転します。

ピクウェの技術は、英国に渡ってから19世紀半ばまでは、トレイ、小箱、化粧道具入れ、ステッキの握り手などの実用具の装飾に多く使われ、純粋の装飾具のデザインとして登場するのは、1850年代のことです。その後、1890年頃まで、英国のジュエリー産業の本拠であるバーミンガムで機械化による量産が行われるようになり、多くの安価なジュエリーが作られました。しかし、その機械化がどのような方法であったかは、不明なのです。19世紀末にはほとんど作られなくなり、その技術も忘れられました。

その製造方法については、金属を焼いてそのまま押し込む、象眼のように彫りを入れておいて叩きこむ、裏面の鋲などでとめるなど、いろいろな説がありますが、実際のところ、どのように作られたのかは、今でも不明のままで、書かれた資料もまったくないのです。一種の秘伝のような形で個人的に伝えられたのでしょう。

19世紀末にかけてピクウェの製造も、ピクウェに対しての関心も、完全に下火となり、英国でもその頃にピクエウェは作られていません。技術としても消え失せ、わずかにアンティークの世界でのみ、19世紀の作品が取引されていました。

そのピクウェの技術を世に復元したのが塩島敏彦なのです。
宝飾史家の山口遼氏曰く、「私の知る限り、ピクウェを復元しようという試みは世界中で全くない」との言葉にあるように、現在は世界で唯一の「pique(ピクウェ)作家」です。

基となる素材に材質の異なる素材を嵌め込むことを総称して象嵌(ぞうがん)と呼びます。
この技法は、古くは古墳時代より行われてきた技法で、日本では、建築装飾金具や武具などにその技法が生かされ、特に武士の鎧や刀剣に重点が置かれてきました。

武具等に使われている象嵌技法は、母材(鉄等の固い金属)の上に嵌め込みたい金属(金等の柔らかい金属)のかたちを、入り口を狭く内部を広く彫ります。その彫った部分に嵌め込みたい金属をたたき込んでつくられます。柔らかい金属がたたき込まれ、内部の広い部分に金属が広がり食い込み外れなくなります。通常の象嵌は、この様な固い金属と柔らかい金属との組合せがほとんどですが、ピクウェでは母材にやわらかい有機素材を使用します。当然のことながら、有機素材の方が金属よりもやわらかいため通常の象嵌とはその対応が大きく異なります。

また、有機素材は収縮など常に動きがあり、性質が均一でなく、個々に違うその性質を見ながら金や銀を嵌め込んでいかなければならないことで、非常に手間のかかる高度な技法であること。(特殊象嵌技術)同時に、金属パーツを如何に細かく美しく作るか、またそれを如何に緻密にきれいに嵌め込んでいくかということから、工業生産には乗せにくい(塩島敏彦独自の技術開発)技法なのです。

1.べっ甲
ベッ甲とは、南洋を回遊する海亀の一種である「たいまい」の甲羅を用いた細工もののことを言います。
「たいまい」は、英語名を「鷹の嘴」と言うほど鋭い口を持った亀で、赤道付近の太平洋、大西洋に生息しており、日本には現地で捕獲され、甲羅の状態で輸入されます。

「たいまい」の背中は、中央に5枚、左右に8枚、周辺に25枚の甲片からなっていて、中央と左右を背甲、周辺を爪、そして腹部を腹甲と呼びます。

製品は色によって分けられており、黒い背甲のみのものは『黒甲』、透明度の高い白い部分は『白甲』、茶色の濃い部分は『飴甲』、飴地に黒の文様が入った部分を『ばらふ甲』と呼びます。

亀の甲羅の1枚の厚みは数ミリほどですが、重ね合わせて厚いものを作ることもできます。
現在では、野生生物の保護と資源確保の問題から、日本のべっ甲組合がパラオにおいて「たいまい」の養殖と放流を行っていますが、平成5年1月1日より全面輸入禁止となり、以後国内在庫を消費するだけとなっています。(年間使用量から推定して約20年は供給が可能と考えられている。)

2.象牙
象牙はインド象とアフリカ象のものに分けられますが、現在使用されているものはほとんどがアフリカ象のものです。
材質によっては、ハード材とソフト材に分けられます。ハード材は硬く、緻密で粘りがあり、透明感があります。また、ねじれや曲がりに対する安定性等においてもソフト材よりすぐれています。

通常装身具用としては、牙の外側の目の荒い部分を用いますが、ピクウェに使う場合は内側の良質の部分を使用しています。日本の象牙組合では、象の密猟取締りのため長年ワシントン条約サイティス事務局に寄付を行ってきたが、平成1年10月1日より象牙は全面輸入禁止となり、現在では日本国内に在庫されているものを使用しています。10年ぐらいの供給が可能と考えられていましたが、平成11年3月より国内法が整備されている日本にかぎり、一部解禁されることがワシントン条約締約国会議で決定されました。

3.蝶貝
蝶貝には大きく分けて白蝶貝と黒蝶貝の2種類があり、どちらも南洋真珠の母貝として南太平洋で現在も養殖されています。区別は字の通り色合いが異なること。ピクウェに使用されている蝶貝は、通常のアクセサリー、ボタン等に使用されているものと異なり、色目の美しいところを特に厳選しており、又誕生から10年経過した貝しか使用できない上に、原材料から使える部分はわずか5%ほどしかありません。

4.パール
ピクウェに使用するパールは、白蝶貝、黒蝶貝から取れる南洋パールを使用しております。パールピクウェではパール本体に象嵌をするので、特別質のいいパールが必要となります。